TOMOS リモートワークに徹する
1R(25.23㎡)
「百年先もつづく、農業を。」をテーマに、新規就農者のパートナーとして環境負荷の少ない形でつくられた野菜の販売を行う「坂ノ途中」さん。野菜の定期宅配を通して、農業や環境のこと、楽しみながら知れたら素敵ですね。代表の小野邦彦さんに、お話を伺いました。
text : Miha Tamura / photo : 坂ノ途中
賃貸の小さなキッチンでも、楽しく料理ができて、おいしく食べられる、そんなちょっとしたコツやアイディアを紹介してもらう連載「小さなキッチンのおいしい暮らし」が始まりました。
書いてくださるのは、野菜の定期宅配を行なっている「坂ノ途中」さん。農薬や化学肥料に頼らない、環境負荷の小さな農業の普及を目指す京都の会社です。
「百年先もつづく、農業を。」という素敵なキャッチコピー、そこに込められた想いに惹かれて、お話を伺うことにしました。
大学在学中から、環境問題に関心があったという小野さん。そのなかで、自分が取り組むべき課題として選んだのが「農業」だったそう。
小野さん:「例えば二酸化炭素が増えて氷河が溶け出して大変だ、と言われても、それは悲しいんだけど何をしたらいいのかわからなくて、ちょっと自分の居場所ではない気がして。じゃあ、自分の生き方に直接結びついているテーマって、なんだろう?と考えたとき、思いついたのが農業でした。
農業って、“人類が生み出した最強の環境破壊ツール”って言ったりするんですけど、実は環境へのインパクトがすごく大きいんです。でも、学問としてそういうことを学んでいる農学部の人と、実践している人たちの間には大きな乖離があって。
僕なら農家さんとパートナーシップを組んで、うまくやっていくことができるんじゃないかな、と」
「坂ノ途中」が取り組んでいるのは、新しく農業を始めた新規就農者さんのパートナーとなること。化学合成農薬、化学肥料は原則不使用など、環境負荷の少ない形でつくられた野菜の販売を担当します。
小野さん:「ずっと農業をやってきた方達に、今までのやり方を変えてください、というのは難しいけど、わざわざ今から農家をやろう、という人たちは、どうせなら環境負荷の小さいかたちでやっていきたいと考える人が多いし、勉強もするし、栽培技術を上げて品質を高めていくことに熱心です。
でも、流通側に問題がありました。“少量不安定なものは売れない、非効率だ”というのが常識とされていて、どんなに品質の良いものを作っても売り先が見つからない。結局、地元の直売所に卸すぐらいになってしまって、なかなかうまくいかず辞めてしまう人も多かった。
それで、“少量不安定だったら売れないってほんまか?工夫した流通の会社があればいいのでは?”というところから、売る側をやろう、ということになったんです」
まずは「変わった野菜」を求めるフレンチなど飲食店向けの販売から始め、2010年からは個人向けの野菜の定期宅配をスタートしました。
小野さん:「定期宅配って、お客さんとずっと接点を持ち続けることができるから、環境負荷の少ない農業を広めていく、プレゼンテーションできる機会を増やすという意味で、すごく良いなと思いました。
やってみたら、定着率がすごく高くて、辞めるお客さんが少なかったんですね。月間の離脱率って全体の5%ぐらい。野菜の定期宅配って、辞める理由は“飽きたから”っていうのが一番大きいと思うんですけど、うちは年間450種類ぐらいの野菜があって“飽きた”で辞める人がそうそういないんです。
お客さんからの声で嬉しかったのは、“子どもが季節感を口にするようになりました”と言われたこと。野菜なんてどれも同じでしょ、て思ってた子が、今では届くのを楽しみにしていて、届くと自分で開けたがって、“八百屋さんごっこ”をすると」
小野さん:「10年間やってきて、農業×野菜、というテーマに興味を持ってくれる人もすごく増えましたね。
オーガニック野菜を売るときって、“安心・安全”とか、“美容・健康”とかを謳い文句にすることが多いですけど、農業って、消費者のためだけにあるものではなくて。地域の余剰資源を循環させるとか生物多様性を維持するとか、多面的な機能があるんです。それなのに消費者便益だけを語ることで、農業の価値を貶めてしまったのではないかとも思っていて。
坂ノ途中では、オーガニックだけど、安心・安全とは謳いません。メッセージは“環境への負担が少ない”こと。それに共感してくれる人がすごく増えてきたなと感じます」
そんな「坂ノ途中」さんの売る野菜だからこそ、スーパーで売られているものとは、ちょっと違うこともあります。
小野さん:「実えんどうのさやが汚い、というお客さんからの指摘があって、問題になったことがありました。でも実えんどうってさやは食べないし、食べる部分に味が乗ってる頃にはさやは汚くなってるものなんです。つまり、さやが汚いのは味が乗ってきてから収穫してるから。一般的に流通しているものは、もっとたくさん採れるよう若いうちに収穫したものを出しているから、さやは綺麗なんですけど。そういう、野菜のメカニズムに興味を持ってもらえるといいなと思います」
小野さん:「もうひとつ例をあげると、大根のスの話。2月後半から3月ぐらいの大根って、スが入りやすくて、一般的には、スが入ってる可能性のあるものはクレームが怖いから出さなかったり、ハーフカットにして、スが入ってないか確認してから出すのが普通なんです。
でもうちでは、“スが入っているものが届くかもしれないけれど、言ってくれたら交換するので、怒らないでね”という売り方をしています。そうすることで、お客さんのストレスも違うし、外から区別がつかなくても万が一を考えて廃棄するのではなく、“たぶん大丈夫ちゃう?”ぐらいで出せるので生産者や僕らの負担も少ないんです。
大根の根っこの部分は、春に花を咲かせるために貯金している貯金箱みたいなものなので、春が近づくと花芽を作る準備をしはじめるので貯金箱がスカスカになってくる。スが入るのは、自然のリズムからいうと当たり前のことなんです。だから、もしスが入ってるものがあったら、“ああ、春がきたのね”と思ってほしい。野菜は生き物だということを、楽しんでもらえると良いな、と」
最後に、「坂ノ途中」を知って「ちょっとはじめてみようかな」と思った人へのメッセージをいただきました。
小野さん:「これから毎日、野菜を中心とした生活にするぞ!とか、高い目標を立てると難しいので、義務感じゃない範囲で、続けてもらえたらいいなと思います。隔週のプランもありますし、ちょっとだけでも大丈夫です。届いたら、焼いて塩を振っただけの名もなき料理でいいので、まずは何回か食べてもらったら。
野菜って、普段何気なく食べているとなんとも思わないんだけれど、ちょっとしたことで味が変わっていくんです。例えば同じピーマンでも毎回違って、7月ごろはみずみずしくて、9月は肉厚で味が乗ってるけど硬め。1回買って終わりだとなかなかわからないけど、何度か続けていると、そういう野菜の“ぶれ”を感じ取ってもらえると思います。
“ぶれ”を楽しむ人が増えると、自然に合わせた育て方をしやすくなって、環境負荷の少ない農業がやりやすくなるんです。最近では、画一的な品質で販売し続ける糖度保証みたいな考え方もあるんだけど、そうではなくて、“いろんな野菜があるんだなー”って思ってもらえたら。そうやって野菜のブレを楽しむことが、周りの人とか、自分の気分の浮き沈みを許容する、練習にもなると思うんですよね」
坂ノ途中さんによる「小さなキッチンのおいしい暮らし」の連載は、これから2週間に1度のペースでお届けします。どうぞお楽しみに!
株式会社坂ノ途中
「100年先もつづく、農業を。」をコンセプトに、農薬や化学肥料に頼らず育てられた農産物を販売。約250件の提携農家から野菜を仕入れ、全国へ宅配している。自社農場「やまのあいだファーム」の運営や、アジアのスペシャリティコーヒー「海ノ向こうコーヒー」の販売も行う。
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田村美葉
田村美葉
グッドルーム・ジャーナル編集部所属。エスカレーターマニアというちょっと変わった肩書きを持っていますが、インテリアやリノベーションが大好きです。グッドルーム・ジャーナルの取材を通じて、いつもたくさんのアイディアを教えてもらってます。