TOMOS 鈴の音
1R(20.6㎡)
写真家・ライターの大山顕さんに、ちょっとおもしろい撮り方で、無垢床リノベーション「TOMOS」のお部屋と住んでいる人の「平面図」を撮ってもらうシリーズ。
今回は、インテリアコーディネーター、亨さんのお部屋を訪問。リノベーション工事のときにカスタマイズを提案し、木の素材に囲まれながら自分らしく暮らす部屋は、まるでギャラリーのようでした。
(編集部)
text & photo : Ken OHYAMA
この連載でお家におじゃまするたびに「部屋ってこんなにもすてきになり得るのか……!」って感心しつつ、それにひきかえぼくの部屋と来たら……と、打ちのめされてきた。そして今回はとくに打ちのめされ度がすごい。なんでしょうか、このとてつもなくかっこいい部屋は!
それもそのはず、部屋の主、亨さんはインテリアコーディネーター。つまり「プロの仕業」ということだ。よかった。安心した。どういう安堵なのか自分でも分からないが。
この部屋がリノベーションされる際には、いろいろと提案・要望をしたそうだ。「この床もあえてこういう節だらけのものにしてもらいました」とのこと。上の平面図写真でよく分かると思うが、床にぽつぽつと無数の点が見える。これらはすべて節穴だ。
「ふつうはあまり好まれないんですけど、足の裏の感触がなかなか良いんですよ」と言われてすりすりしてみると、たしかにちょっとおもしろくて良い感じだ。
「これぜんぶ杉ですか?」ときくと、そうです、と答えて「杉は扱いづらいと感じている方もいらっしゃいます。ですが、仕事で良さを知ったことで大好きな素材になりました」と。
杉って柔らかく傷つきやすいからこんなふうにインテリア全体につかわれることはあまりない。「もともと新品ピカピカではなく、使い込まれた感じが好きなんです。だから傷やシミが付くの上等、って思ってて」と亨さん。
お話を聞いて、大学時代に工芸の歴史と文化を研究している先生の言っていたことを思いだした。「現代の大量生産品と伝統的な日用工芸品との違いはどこにあるか。それは製品として最高の状態が『いつ』か、にある」と。いわく、現代的なマスプロダクツは新品の時、つまり手に入れた最初の時点がピークであとは下がっていく。しかしたとえば碗などは使っていくうちにだんだん良くなっていく、と。
当時は「良くあるノスタルジックな文明批判だなー」ぐらいにしか思わなかった(先生ごめん)。大量生産品大好きのぼくはいまでも「だから工芸品の方が良い」という論には同意しかねるが、物品の価値がどこの時点にあるのかという問いは確かにすごくおもしろい。
後に電機メーカーに就職して知ったことに「中古家電品の方が新品より信頼できることがある」というのもある。故障が起きる原因は、実は初期不良が多い。中古家電はむしろ「テスト済み」なのだ、と。案外大量生産品のピークも新品時ではないのかもしれない。
亨さんがいう「新品ピカピカでないものが好き」は単に雰囲気の話ではなく、部屋もまた使い込まれていくうちに良くなっていく、ということなのかもしれない。これはパソコンに似ている。必要なソフトと環境が整えられたマシンがいちばんだ。新品は使い勝手が悪い。いちからいろいろ設定し直すのはめんどくさすぎる。スペックがそれほど変わらないのだったら、だんぜん使い込まれたもののほうがいい。そして部屋はパソコンみたいに毎年性能が上がった新製品が出るわけではない。
ただ、賃貸の場合「原状回復」というものがあるのでなかなかそうはいかない。着心地が良くなっているからユーズドのデニムの方が価値がある、というわけにはいかないのだ。
亨さんも「原復は絶対ではない、と思ってるんです」とおっしゃっていた。たとえば亨さんの後にぼくが部屋を借りるとしたら、原状回復など必要ないと思う。もしかしたら「前の借り手がどういう人か」が賃貸の価値に大きく影響するようになったら面白いな、と思った。
ぼくの感想と思いつきを語ってしまった。ここで恒例の「集めている/集まっちゃったものを並べてもらう」をやっていただこう。
なにか収集しているものはありますか、とたずねると「うーん」とすこし考えて「コレクションと呼べるほどの数はありませんが、フクロウですかね」と亨さん。確かに部屋のいろいろなところにいろいろなフクロウがいる。
かわいい。実際のフクロウやミミズクってけっこう怖かったりするけど。それはティディベアも同じか。クマなんてちょう怖いはずなのに、なんであんなかわいらしくしたんだろう。
ここで、棚のあちこちにいるフクロウを一緒になって並べていた編集田村さんが「なんだか石もちょいちょいありますね」と気づいた。確かにある。「キャンプ先から、なんとなく拾って持って帰ってきちゃったりするんですよね」という亨さんに対して「わかるー」と田村さん。わかるんだ!
ぼくはこれまでいろいろな本気の収集家に会ってきたが、彼らの多くが口を揃えて「石を集めるようになったらおわりだ」という。地質学的分類などはせず、ただフォルムや手ざわりの魅力だけで集め始めると、石ってそこらじゅうにあってきりがない。たしかに「おわり」な感じがする。
しかし、「あらためてなんで集めてるのかってきかれるとちょっと困りますね……」という亨さんを見ながら、ふと思ったことがあった。もしかしたら、これは「キャンプの一環」なのではないか。考えてみればインテリアを生業にする方がキャンプを趣味にしているっておもしろい。ただ、そのままでは居心地が良くない屋外の場所を、一時的に自分のスペース化するのがキャンプだとすれば、それこそまさにインテリアアドバイザーの面目躍如ともいえる。
あまりにすてきなこのプロの仕業インテリアは、もはや個人の部屋の域を超えていて(もちろん居心地はすごく良いのですが)、杉の木肌色で統一された雰囲気はどこか「半屋外」的な開放感がある。たぶんデッキみたいに感じるのだと思う。そこに色的に対照的な灰色の石が置かれると、さらにキャンプ感が醸し出される気がした。考えすぎだろうか。考えすぎだな。
ともあれ、すばらしくすてきな部屋だった。取材のたびにいつも「真似しよう」という田村さんだが、さすがにこの部屋は真似できないと悟ったようだ。ぼくの家じゃないけど「みんな見に行って!」と言いたくなった。すこしたって、あちこち使い込まれてきたころにもう一度たずねたいな。
大山 顕
写真と文:大山 顕
フォトグラファー/ライター。1972年11月3日生まれ。工場や団地などの構造物を中心に撮影と執筆を行っている。出版、ラジオ出演、イベント主催などで活躍。『工場萌え』『ジャンクション』『団地の見究』『ショッピングモールから考える』など著書多数。 twitter:@sohsai/instagram:@ken_ohyama
(最後にもう一度編集部から)
グッドルームのオリジナルリノベーション「TOMOS」のお部屋は、東京・大阪・名古屋・福岡で、毎月10~20部屋登場します。社員も気に入って住んでいる者が多い、無垢フローリングの居心地のよい空間を体験してみてくださいね。
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