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歴史的建築物がマンションに。 「グランサンクタス淀屋橋」を訪ねる

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団地、アパート、ハイツ、マンション。グッドルームで紹介しているいろいろなお部屋、その外観も含めて「お、これはなかなか面白いな!」ていうもの、時々めぐり合います。そう、集合住宅って、おもしろい! 世界のおもしろい建築をたくさん巡っているタケさんに、おもしろい集合住宅を紹介していただくコラム。

第8回は、「外壁保存」という手法で、元は銀行だったという歴史的な建築物が今ではマンションとして活用されている事例をご紹介。とても集合住宅とは思えない重厚なエントランスがすごいです。

歴史的建築物の「外側」を保存する

近年、東京や大阪といった大都市を歩いていると、低層部が歴史的な建築物で、その上に現代的なビルという組み合わせをよく見かけるようになりました。このようなデザインを「外壁保存」や「ファサード保存」といいます(ファサードは建築物の正面という意味)。歴史的建築物の保存を求める意見と、最新の機能的なビルに建て替えたい建築主の要望、その双方に配慮した結果、編み出された手法です。

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実は、建築を丸ごと保存する印象が強い欧米でも外壁保存は行われています。上の写真は私がロンドンで見かけたもので、道路に面した外壁だけを残して内側はきれいに解体されたことが、向こう側が見える開口部や外壁を支える鉄骨の存在からわかります。

東京銀行協会ビル(1993・平成5年)/旧東京銀行集会所(1916・大正5年)、東京都千代田区丸の内1

東京銀行協会ビル(1993・平成5年)/旧東京銀行集会所(1916・大正5年)、東京都千代田区丸の内1

日本における外壁保存は、だいたい1980年代末から徐々に増えてきたと思います。しかし、率直にいうと当初は新旧の調和が取れていない建築も少なくありませんでした。その例に挙げて恐縮ですが、東京銀行協会ビルを見ると強引な印象は否めません。ただ、設計側を弁護しておくと、そもそも歴史的建築物にガラス張りのオフィスビルを違和感なく組み合わせるなど非常に困難ですし、この種の建築の増改築やリノベーションにおいては、新旧のデザインの違いをあえて際立たせる方法もあり得ます。

銀行の建物をマンションに。「グランサンクタス淀屋橋」

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さて、外壁保存は主にオフィスビルを中心に行われてきましたが、最近そのマンション版が登場しました。それが今回紹介する大阪市のグランサンクタス淀屋橋です。この低層部分はもともと大阪農工銀行という金融機関で、後年は繊維商社が本社屋として使っていました。これを不動産会社が取得してマンションに建て替えるにあたり、コストはかかるものの外壁保存によって付加価値を付ける方針を採った次第です。

高麗橋ビルディング/旧大阪教育生命保険(1912・明治45年)、大阪市中央区高麗橋2

高麗橋ビルディング/旧大阪教育生命保険(1912・明治45年)、大阪市中央区高麗橋2

元の建築である大阪農工銀行が完成したのは1918(大正7)年。東京駅などを手掛けた建築界の重鎮 辰野金吾の大阪事務所がその設計を担当しました。ところで、建築好きの方なら大阪農工銀行について「辰野らしくない」と思うでしょう。東京駅に代表される、赤レンガの壁面に白い石材で帯を入れた「辰野式」と呼ばれるデザインが彼の特徴であり、グランサンクタス淀屋橋の近くにある大阪事務所が設計した高麗橋ビルディングもそうです。

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しかし大阪農工銀行はご覧の通りクリーム色。なぜかというと、前面道路の拡幅に伴い、1929(昭和4)年に國枝博という別の建築家が改修したのです。この改修によって道路側の壁面はアラベスク文様(イスラムの様式)のテラコッタタイルで覆われ、辰野の作風とはまったく異なる建築に変わりました(なお、裏側には当初の赤レンガが残っていた)。辰野が知れば怒っただろうと思いますが、彼は1919(大正8)年に亡くなっており、だからこそこの改修は可能だったのかもしれません。

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その後、繊維商社の時期を経てマンションに建て替えとなったわけですが、大阪市船場地区の建築制限上、外壁の位置を現状より奥に後退しなければならないという問題が立ち塞がりました。そこで内側を解体した後、L字型に残った全長30m、重さ600トンの外壁を水平移動させる曳家(ひきや)工法という難工事を実施。その完了後、内側に地上13階、地下1階建てのマンションを建設し、2013(平成25)年に完成しました。

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ここからようやくこのコラムの本論である集合住宅部分の紹介に入ります。新旧のデザインの違いが際立っていた従来の外壁保存建築に比べると、グランサンクタス淀屋橋の姿は違和感がありません。その理由のひとつは、新築部分のタイルに保存部分と近い色を選んでいること。また、微妙に異なる色によって建設時期の違いも表しています。

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もうひとつは開口部を縦長で統一したためです。レンガ造や石造は構造的な制約から開口部(窓や出入口)は縦に長い形になる一方、鉄筋コンクリート造にはその制約はありません。グランサンクタス淀屋橋では、保存部分に合わせてマンションの窓も縦長にし、バルコニーにも小柱を設けて縦長に見せています。ガラス張りのオフィスビルよりデザインの自由度が比較的高いマンションだから、こうした操作が可能だったという背景はあるにせよ、グランサンクタス淀屋橋は、違和感が批判されがちだった外壁保存に新たな可能性を示した好例です。

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大正~昭和~平成という時代の経過と共に、外壁のデザインや位置が変化し、用途も銀行から会社の事務所を経てマンションに。大阪の近現代の歴史がこのデザインに凝縮されています。スクラップアンドビルドが主流の日本でも、リノベーションのように古い建築を活用するケースは増えつつあります。外壁保存とリノベは方向性が異なりますが、様々な方法で建築の再生事例が増えれば、私達の住まいや都市はもっと多様で豊かになるでしょう。

名称:グランサンクタス淀屋橋
住所:大阪市中央区今橋3-2-2

写真と文・タケ

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