楽しみながら「革のまち」の伝統に触れる『浅草エーラウンド 2017秋』
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団地、アパート、ハイツ、マンション。グッドルームで紹介しているいろいろなお部屋、その外観も含めて「お、これはなかなか面白いな!」ていうもの、時々めぐり合います。そう、集合住宅って、おもしろい! 世界のおもしろい建築をたくさん巡っているタケさんに、おもしろい集合住宅を紹介していただくコラム。
第5回は、上から見ると、まるでドーナツ!下から見ても、美しい姿に圧倒される、めずらしい円形集合住宅を特集。中庭をぐるっと建物で囲んで守る様子は、ちょっと『進撃の巨人』みたい!? Googleマップの衛星写真とあわせてお楽しみください。
(編集部)
皆さんは集合住宅というとどんな形を思い浮かべるでしょうか。見かけ上は多様なデザインがあるものの、おおむね分厚い板のような形に落ち着くかと思います。敷地形状によってはL字型やもっと複雑な形もありますが、それらも基本的には板型の組み合わせで出来ています。タワーマンションも基本は四角柱。いずれにせよ集合住宅は直方体、つまり直線的な形が主流を占めています。
ところが、円形の集合住宅というものも存在するのです。ここでいう円形とは部分的なカーブではなく、建物全体が円/円弧を描いているものをいいます。
左:ロイヤル クレセント、右:サーカス
イギリス イングランド西部のバースは18世紀に保養地として発展した都市で、美しい街並みは世界遺産に登録されています。そこに現代でいうリゾートマンションとして建てられたサーカスという集合住宅は、Googleマップを見てのとおりドーナツのようなリング型(正確には3方向に切れ目がある)、そしてすぐ近くのロイヤル クレセントという集合住宅は楕円のリングを半分に切った形になっています(クレセントは三日月の意味)。これらは円形集合住宅の金字塔というべき建築で、サーカスはジョン ウッド(父)、ロイヤル クレセントはその息子が設計しました(父と子は同名)。
このふたつの影響からか、イギリスをはじめヨーロッパには円形集合住宅がけっこう見られます。一方、日本ではホテルにいくつかの事例はありますが(例:半円形のホテル日航東京、2015/10/1よりヒルトン東京お台場)、日当たり重視の考え方と、敷地に最大限可能な大きさで建てる場合が多いため、集合住宅での円形はほとんどありません。その珍しい国内事例から2件を紹介します。
新桜川ビルは大阪府住宅協会(現・大阪府住宅供給公社)が1959(昭和34)年に建設した集合住宅。1階に店舗、2~4階に住宅が入っています。交差点の角地を活かした半円形の建築は、建設当時は街並みのランドマークになっていたことでしょう。
後に開通した阪神高速によって特徴的な外観は見えにくくなってしまいましたが、高架道路が新桜川ビルに沿いながらカーブする景観は、建築と土木の見事なコラボレーションとなっています。
新桜川ビルの内側。外側は半円形ですが、内側は細かく分割した多角形になっています。また、ロイヤル クレセントをはじめ海外の半円形集合住宅は円の内側が建築のメインの姿であるのに対して、新桜川ビルは外側がメインで内側はバックヤード的な扱いにとどまっている点が異なります。
名称:アイランドシティ・インフィニガーデン
住所:福岡市東区香椎照葉3-2
アイランドシティ・インフィニガーデンは、福岡市の博多湾に浮かぶ人工島アイランドシティにある賃貸マンションです。完成は2008(平成20)年。サーカスと同じリング状の建築で、120度ずつの3分割になっている点も共通。階数は14~16階建て、戸数は389戸。これほど大きな円形集合住宅が実現できたのは、既存の街並みがほぼ存在しない人工島という真っさらな場所だからでしょう。
リングの内側には人工地盤が設けられ、下部は駐車場、上部は住民専用の中庭になっています。全周をマンションで取り囲まれ、さらに部外者は入れない人工地盤ということで、中庭はこの上ない安心感がありますね。まるで『進撃の巨人』の世界です(いや、そのたとえは安心とは違うか?)。
ところで、実はインフィニガーデンの一部はカーブではなく直線状になっています。なぜ完全な円にしなかったのでしょうか。その答えはアイランドシティの完成予想図に描かれています。
なんと、本来このマンションは8の字型で設計されていたのです。現在完成しているのは手前のみ。計画では直線部分の先端から半円形の棟が続くはずですが、現在、その予定地にはタワーマンションが建設中なので、当初の計画は残念ながら中止されたものと思われます(つまりこの絵はあくまでも過去の「未来予想図」)。8の字型という極めてユニークな集合住宅はぜひ見てみたかったですね。
写真と文・タケ