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出版の聖地で出会う「1冊の本」。『 森岡書店銀座店(銀座・東京)』

お気に入りの本屋を探そう Vol.7

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出版の聖地で出会う「1冊の本」。『 森岡書店銀座店(銀座・東京)』

本も好きだけど、本屋はもっと好き。ずらりと並んだ本や雑誌の棚を眺めているだけでも刺激的だし、最近では、カフェを併設していたり、可愛い雑貨が売られていたり、面白そうなイベントを開催していたり、本屋で過ごす時間がどんどん楽しくなっている。そこで、2017年、あなたのお気に入りの本屋を見つけてみませんか。
(text : Miha Tamura / photo : Takuya Kanai)

昭和4年築、出版の礎を築いた場所で。

銀座の中央通りの喧騒から少し離れ新富町駅のほうへと足を運ぶと、静かな通りに、遠くから見てもそれとわかる、ひときわレトロなビルが堂々と建っている。
2015年5月、このビルの1階に、ちょっと変わったコンセプトの本屋さんがオープンした。オーナーは、茅場町で古書店を営んでいた森岡督行さん。森岡さんがその歴史と趣に惹かれて新店舗を開くことを決めたこのビルは、東京都の歴史的建造物にも指定されている昭和4年築の鈴木ビル。昭和14年から「日本工房」という編集プロダクションが入居していた「出版の聖地」とも言われている場所だそう。

「名取洋之助、藤本四八などの写真家、’64年の東京オリンピックポスターを制作したデザイナー亀倉雄策など、多士済々たる人々がここに集って、日本の文化を海外に伝えるプロパガンダとしての役割を担っていました。それらのメンバーが、戦後の日本の出版、メディアの礎(いしずえ)を築いていったということは確かです。そういう歴史的背景を継いで、本の展示をすることに、必然性と意義を感じました」

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「1冊だけ」の本屋さん。

ここ森岡書店銀座店のコンセプトは、とてもシンプル。
「1週間に1冊だけ」(ときどき2〜3週間に1冊)の本を展示し、販売する。毎週訪れれば違う本に出会えるが、逆に言うと、先週展示していたものは、次に来た時にはもうない。紛うことなく、一期一会の場所。書店としては、とても珍しいやり方だと思うが、どうしてこの形にたどり着いたのだろう?

「茅場町の書店で年に何回か、新刊の出版記念イベントを行っていた時にヒントを得ました。著者がサインを入れ、訪れた人と言葉を交わす。それがとても豊かで美しいな、と感じたんです。本が1冊だけあれば成り立つし、喜んでくれる方が多いのでは、と」

仕事と自分のやりたいことの間に境目がない。大変だけれど、苦ではないという。
「毎週来てくれるお客さんも確実にいて、励みになっています」

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豊かな書店の文化を継いで。

「今の日本の出版の現状は非常に豊かだと思います。書店は斜陽産業と言われるけれどそんなことは全くない。今ほど書店が脚光を浴びて、たくさんのお客さんが喜んでいる現状はないです」と森岡さん。
大正期や昭和初期の文学作品などの中で描かれる、京都の丸善や、銀座の紀伊国屋書店の様子をみても、本と一緒に雑貨を販売したり、カフェやギャラリーを併設したり、もともと書店は文化全般の蓄積の場所として機能していた。それが、2000年以降に新しい形となってあらわれているというのだ。
「出版記念イベントや、物販、映画の上映会など、ただ本を求めていくためでなく、その場、時間を共有する楽しさが書店には備わっています。売上は減少していても、書店にくる人たちの満足度はかなり上がっているはず。この場所は、そんな豊かな日本の出版や本の現状のあらわれでありたいんです」

この日の1冊

『見えない都市』イタロ・カルヴィーノ著 米川良夫訳 河出書房新社

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取材の日の「1冊」は、イタリアの小説家・イタロ・カルヴィーの『見えない都市』。マルコ・ポーロがフビライ・ハンの寵臣となり、様々な空想都市の奇妙な報告を行なう。画家の鳴坂隆さんによる「見えない都市」を可視化した作品とあわせて展示した。

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森岡書店銀座店では、新旧を問わず選ばれたある「1冊」とそれから派生する展覧会との組み合わせで、小さな空間の中に豊かな世界観を構築している。
「毎週新装開店という気分です」
静かな口調ながら、ひとつひとつ丁寧で重みのある言葉を選び、お話してくれた森岡さん。今日はどんな世界が待っているのか、楽しみにしたくなる本屋さんだ。

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森岡書店銀座店
住所:東京都中央区銀座1−28−15 鈴木ビル1階
営業時間:13:00〜20:00、月曜休
電話:03-3535-5020

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