変形できる花器。 DULTONの「LINK TUBE VASE」
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トラフ建築設計事務所 鈴野浩一
葛西薫さんのカレンダー
-それでは早速ですが、愛用の品を・・・
実は僕、あまりモノに執着しないタイプなんで、そんなに愛用しているものってなかったんですが・・、この葛西薫さんのカレンダーは、もう9年使い続けてますね。
-カレンダーですか。
はい、もう、何の変哲も無い普通のカレンダーなんですが、安心感があるんです。変わらないデザインで、シンプルなので。
-本当にシンプルですね。フォントの感じとか、このなんとも言えない余白の感じ、いいですね。このカレンダーに行き着いたいきさつはどのような感じだったのですか?
できるだけシンプルなカレンダーを探していたので、これに行き着きました。2色しか使っていないところ、よけいな装飾もないところに、惹かれました。デザインしすぎていないところも好きです。
-最近デジタルでのスケジュール管理が主流になってきていると思うのですが、あえて手書きにしている理由ってあるんでしょうか?
はい、やっぱり書くと、覚えますね。月間で見られるし、外に出る時はA4に印刷してから打ち合わせするんですよ。けっこう注目されます。『なんですか、それ?』って。笑
実際、葛西さんと打ち合わせする時に、特に意識しないで使っていたら、葛西さんから『そんな使い方があるんだ』と喜ばれました。僕もそれを聞いて、ああそっか、葛西さんのデザインだったって、改めて気づいて。文字の大きさを変えたり、色を変えたりして、重要なスケジュールとか、そうでもないスケジュールを見分けるようにしてます。忘れちゃいけない、大学の講義の予定は、大きく赤で書いたり。見返したときも、ああこんなことがあったんだ、って懐かしく思いますね。
-たしかに、デジタルだと見返さないですものね。
この9年分、束にしたときのこの感じがいいんです。ぼろぼろなんですけど。最初に始めたころ、スケジュールが少なくて、予定がスカスカだったんですが、今はかなり多く詰まっています。使い方としては、全部重ねて、釘に引っ掛けてます。最初は釘を打ち込みすぎちゃって、カレンダーが収まらなくなって。それでまた釘を少しずつ抜いて伸ばして。なんて、そんなことをしてます。笑
-いいですね、そのエピソード。ところで鈴野さんは、普段どんなお店に行かれることが多いのですか?
学芸大学に住んでいるので、やっぱり『クラスカDo』はよく行きますね。あとは飲食店だと、『チニャーレ』っていうお店。6人くらいで一杯になってしまう小さなお店なんですけど、ワインも飲めるし、食事も美味しいし、よく行きます。洋服とかだと、『ピーコーエン』も好きです。洋服屋さんでもあるし、ミニ四駆だって、ゲームも、駄菓子もあります。子供からお年寄りまで、いろんな人が集まってくるようなお店で、人が人を呼んでどんどん輪が広がっていく、そんな場所です。
【編集後記】
とても雰囲気のある鈴野さん。静かに、穏やかに話す口調に、引き込まれてしまうようでした。トラフの建築設計事務所は倉庫を改装した、とても開放的な場所で、過去の名作がところどころに点在しています。あえて壁は白を残して、色を塗らないのは、色を使ってしまうとその色に染まってしまうからだそう。なるほど、だからこそ様々な視点から、型にはまらないものづくりができるのだなあと感じました。次の新作はブライダルジュエリー。建築事務所なのに、指輪?と驚きましたが、聞いて納得。本物のゴールドの上にわざと銀メッキを薄くかけて、長い年月を経てゴールドが顔を出してくる、というもの。発想の転換。ありそうでないもの。全く異なるプロダクトであっても、見るものを驚かせてくれる。それが鈴野さんの、『どこにもない、ふつう』でした。
株式会社トラフ建築設計事務所
鈴野浩一(すずの こういち)と禿真哉(かむろ しんや)により2004年に設立。建築の設計をはじめ、ショップのインテリアデザイン、展覧会の会場構成、プロダクトデザイン、空間インスタレーションやムービー制作への参加など多岐に渡り、建築的な思考をベースに取り組んでいる。主な作品に「テンプレート イン クラスカ」「NIKE 1LOVE」「ブーリアン」「港北の住宅」「空気の器」など。「光の織機(Canon Milano Salone 2011)」は、会期中の最も優れた展示としてエリータデザインアワード最優秀賞に選ばれた。2011年「空気の器の本」、作品集「TORAFU ARCHITECTS 2004-2011 トラフ建築設計事務所のアイデアとプロセス」 (ともに美術出版社)、2012年絵本「トラフの小さな都市計画」 (平凡社)を刊行。