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レトロな団地の室内を再現、八王子の集合住宅歴史館に行こう!

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団地、アパート、ハイツ、マンション。グッドルームで紹介しているいろいろなお部屋、その外観も含めて「お、これはなかなか面白いな!」ていうもの、時々めぐり合います。そう、集合住宅って、おもしろい! 世界のおもしろい建築をたくさん巡っているタケさんに、おもしろい集合住宅を紹介していただくコラム。

今まで、素敵な集合住宅を外から眺めて楽しんできましたが、第11回は、レトロな団地の「内側」を見ることのできる施設をご紹介します。
レトロ好きにとっては夢のよう。

レトロな団地の室内を再現、八王子の集合住宅歴史館に行こう!

保存か解体か?

昔の洋風建築など歴史的建築物の解体計画が明らかになると、保存を求める声がよくあがります。
それで保存が決まれば幸いですが、結局解体される場合が少なくありません。
もっとも、古い建築物の維持が難しいとか建て替えて事業を発展したいなど、所有者側にもいろいろ事情があるので、一概に所有者を批判するのはいささか酷な話です。

では、保存か解体かの対立に解決策はあるのでしょうか。
これにはいくつかの方法があって、ひとつは今や普及した感のあるリノベーション、もうひとつは第8回の記事で紹介したようなファサード保存です。
また、現在の場所にこだわらなければ移築保存という方法もあり、江戸東京たてもの園(東京都小金井市)や博物館明治村(愛知県犬山市)には各地から移築された建築物が並んでいます。

ただし、解体して再び組み立てられる木造・レンガ造・石造建築物は移築が可能ですが、全体が強固な塊である鉄筋コンクリート(RC)造は構造的に解体(分解)が不可能です。解体せずに移動する曳家工法でも移動距離は数十m程度。

RC造集合住宅も古民家と同じように歴史的な面から評価すべき時期に来ているものの、関東大震災後の復興住宅として有名だった同潤会アパート15カ所がすべて解体されるなど、移築が難しいRC造集合住宅はリノベーションの採算性が合わなければ建て替えるしかないのが実情です。

そんな中、同じデザインで新たに「復元」されている場所として、こんな例があります。

例1:森ビルの経済力で「復元」された同潤会青山アパート

ところで、同潤会青山アパートの建て替えである商業施設 表参道ヒルズ(東京都渋谷区)の端には、解体されたはずの青山アパートそっくりの建築があります。
実はこれ、同じデザインで新たに建てた同潤館というもので中身は店舗。このように復元という選択肢もあり得ますが、森ビルのような経済力がなければ難しいでしょう。
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例2:内部の住戸を実物大で復元した常盤平団地

しかし、1棟丸ごとは無理でも内部の住戸だけならRC造集合住宅でも移築保存や復元ができなくはありません。実際、江戸東京博物館(東京都墨田区)や松戸市立博物館(千葉県松戸市)には日本住宅公団(現UR都市再生機構)の初期の団地の住戸を実物大で復元したものが展示されています。当時の家具や小物まで取り揃えて昭和30年代の団地の室内を完全再現した、レトロ好きな方にはたまらない展示です。

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常盤平団地の復元展示(松戸市立博物館)
注:本物の常盤平団地も松戸市内に現存する。

八王子の集合住宅歴史館に行こう!

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そして、この方法の頂点に立つのが東京都八王子市のURの研究施設にある集合住宅歴史館。ここは同潤会アパートや公団時代の団地の住戸を移築保存した団地の博物館なのです。大きな建物の中に室内を再現するという点は、プレハブ小屋に造られたマンションのモデルルームと似たようなものですが、集合住宅歴史館ではコンクリートの本体以外、可能な限り本物の団地を切り取って移築しています。その内容の一部を紹介しましょう。

同潤会代官山アパート

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同潤会代官山アパート(東京都渋谷区、完成 1927・昭和2年)の居室
まずは戦前の同潤会から、特に先進的だった代官山アパートの居室です。

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見た目は古めかしいものの、台所にガスと水道は既に完備されていました。

蓮根団地

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次は戦後の昭和30年代、公団の蓮根団地(東京都板橋区、完成 1957・昭和32年)から。

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台所と食堂を1室にまとめたダイニングキッチン(DK)は団地によって普及しました。これはその初期の姿(リビングとも一体化したLDKはまだ普及していない)。当時はテーブルも普及していないので、このテーブルも備え付けのものです。

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ステンレス天板の流し台は昭和30年代前半に製品として量産化されますが、その直前の建設である蓮根団地ではセメントと石材を混合した人造石研ぎ出し(略称:人研ぎ、ジントギと読む)という材質が使われています。小学校の手洗い場などで見覚えがある方も多いでしょう。

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居室。

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便器は和式。

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便器の商標には「TOYO TOKI CO. LTD. 」の文字が。衛生機器メーカーTOTOの旧社名 東洋陶器のことで、TOTOの公式サイトによるとこの商標は1932~61(昭和7~36)年の間、品質の優れた高級品に使用したそうです。

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浴槽は木製。とはいえ、内風呂のある住宅が少なくて銭湯通いが普通だった当時、浴室を備えたこと自体が先進的でした。

晴海高層アパート

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晴海高層アパート(東京都中央区、完成 1958・昭和33年)の模型
公団初期の高層棟。戦後初期に建設された高層集合住宅は他に3件ほどありますが、建築家の前川國男氏が設計した晴海高層アパートはデザインや技術的に別格でした。

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柱、鴨居、窓や障子の桟、畳の縁といった線がピシッと合い、とても端正な空間が成立しています。一見、普通に思えますが実はハイレベルなデザインです。

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高級旅館ではありません。団地ですよ。

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蓮根団地の翌年の晴海高層アパートにはステンレス流し台が導入されています。

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しかし浴槽はまだ木製。高層アパートとのギャップに時代を感じます。なお、写真は割愛しますが便器は洋式です。

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ここに掲載したのはごく一部で、集合住宅歴史館には貴重で興味深い史料がたくさん展示されています。見学できるのは平日だけなどの制約がありますが、建築や集合住宅の歴史に興味がある人なら必見の場所なので、ぜひ機会を作って訪れていただきたいと思います。

名称:独立行政法人都市再生機構 技術・コスト管理部技術管理分室 集合住宅歴史館
住所:東京都八王子市石川町2683-3
備考:見学できるのは平日のみで予約制。詳しくは公式サイトを参照のこと。

写真と文・タケ

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